個人経営の飲食店が儲からない理由と、そこから抜け出す順番

席は埋まっている。忙しい。売上も去年より増えた。それなのに、手元にお金が残らない。
この状態には共通の構造があります。そして原因は、多くの場合お客様の数ではありません。この記事では、利益がどこで消えているかを数字で特定して、直す順番を決めるところまでを扱います。
「儲からない」と「客が来ない」は別の問題
まず切り分けます。売上が足りない店と、売上はあるのに利益が残らない店では、打つ手が正反対です。
客数が足りないなら集客が答えです。しかし忙しいのに残らない店が集客を強化すると、忙しさだけが増えて利益は変わりません。むしろ人手が必要になって悪化します。
自分がどちらかは、次で判断できます。
| 状態 | 判断 | この記事の対象 |
|---|---|---|
| 席が空いている時間が多い | 売上の問題 | 対象外(集客の記事へ) |
| 忙しいのに利益が薄い | コスト構造の問題 | この記事の対象 |
| 売上は増えたのに利益が横ばい | コスト構造の問題 | この記事の対象 |
売上そのものが足りない場合は、飲食店の売上が伸びない原因のほうが役に立ちます。ここから先は、売上はあるのに残らない店の話です。
利益がどこで消えているかを分解する
飲食店のコストは、FL比率という指標で見ます。F(Food=原価)とL(Labor=人件費)を足して、売上の何%かを見るだけの指標です。
金融庁の委託調査(日本生産性本部作成)では、FL比率は60%以下を目指すべきとされ、望ましい売上構成として次のモデルが示されています。
| 項目 | 売上100万円のとき | 比率 |
|---|---|---|
| F(食材原価) | 30万円 | 30% |
| L(人件費) | 30万円 | 30% |
| FL 合計 | 60万円 | 60% |
| その他経費(家賃・水光熱・広告など) | 30万円 | 30% |
| 営業利益 | 10万円 | 10% |
同じ資料では原価率の目安も、20%前後(ドリンクなど利益率の高い商材)/30%前後(平均的な飲食業)/35%以上(高級・こだわり系)の3つに整理されています。
出典:金融庁委託事業「業種別の経営改善支援の効率化に向けた委託調査」飲食業(公益財団法人日本生産性本部作成・2023年3月)
まず、自店の数字をこの表に当てはめてください。どこが30%を超えているかで、原因の場所が決まります。
個人店で利益が消える5つの場所
① 自分の人件費を数えていない
これが最大の盲点です。個人店のL(人件費)には、店主自身の労働が入っていないことがほとんどです。
数字で見ます。売上100万円、原価30万円、スタッフの人件費15万円、その他経費30万円の店。帳簿の上では25万円の利益が出ています。
ここに、店主が月250時間働いた分を時給1,200円で計上すると30万円。利益は25万円から −5万円になります。
| 自分の人件費を入れない | 入れる | |
|---|---|---|
| F 食材原価 | 30万円 | 30万円 |
| L 人件費 | 15万円 | 45万円 |
| FL比率 | 45% | 75% |
| その他経費 | 30万円 | 30万円 |
| 利益 | +25万円 | −5万円 |
同じ店です。数え方を変えただけで、優良店が赤字店になります。そして正しいのは右側です。店主が倒れた瞬間に、その30万円は実際に発生します。
② 家賃を「月額」で見ている
家賃は月ごとに払っていますが、実際には時間ごとに発生しています。月20万円の家賃で1日10時間・月25日営業なら、1時間あたり800円です。
お客様が2組しかいない時間帯も、この800円は発生しています。空いている時間を減らせないなら、その時間は閉めたほうが利益は増えます。
個人店が長時間営業で消耗する理由がここにあります。開けている時間を増やしても、埋まらなければコストだけが積み上がります。
③ 値付けが原価からではなく感覚
「このあたりの相場は1,000円くらいだから」で決めた価格は、自店の原価率を反映していません。相場は他店の家賃と他店の仕入れで決まった数字です。
メニュー単位で原価率を出すと、たいてい売れ筋の1〜2品だけが極端に低い利益で出ていることが分かります。値上げの上限を数字で判断する方法は、飲食店の客単価の平均にまとめています。
④ メニューが多すぎる
メニューを増やすと売上が増える気がしますが、実際に増えるのは食材の種類・仕込みの時間・廃棄です。
とくに効くのが廃棄です。月に1万円分の食材を捨てている店は、原価率30%なら3万3千円分の売上を失っているのと同じことになります。
注文の少ないメニューを削ると、原価率と仕込み時間の両方が同時に下がります。削るのは、増やすより効きます。
⑤ 割引が利益を削っている
値引きは、削った分がまるごと粗利から消えます。原価率30%の店で300円値引きすれば、その300円を取り戻すのに430円分の追加注文が必要です。
割引を否定する話ではありません。上限を決めていないことが問題です。粗利率から逆算する方法は飲食店の割引は何割が適正?で解説しています。
集客を増やす前に、1回の来店で残る粗利を確かめてください。
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自分の時給を出してみる
儲かっているかどうかを一撃で判定する方法があります。
自分の時給 =(営業利益 + 自分が受け取った額)÷ 自分の年間労働時間
年間の所得が300万円で、年3,000時間(週58時間)働いているなら、時給は1,000円です。
| 年間の所得 | 2,500時間(週48h) | 3,000時間(週58h) | 3,500時間(週67h) |
|---|---|---|---|
| 200万円 | 800円 | 667円 | 571円 |
| 300万円 | 1,200円 | 1,000円 | 857円 |
| 400万円 | 1,600円 | 1,333円 | 1,143円 |
| 500万円 | 2,000円 | 1,667円 | 1,429円 |
この数字を、お住まいの都道府県の最低賃金と比べてみてください。下回っているなら、それは経営の問題であって努力不足ではありません。
厳しい数字ですが、ここを直視しないと打ち手の順番を間違えます。時給が最低賃金を下回っている店が最初にやるべきなのは、集客ではありません。
直す順番は決まっている
効果が出るまでの速さと、必要な労力で並べると、順番はこうなります。
| 順番 | やること | 効果が出るまで | 必要な労力 |
|---|---|---|---|
| 1 | 値付けを見直す | 翌月 | 小 |
| 2 | 売れないメニューを削る | 1〜2ヶ月 | 小 |
| 3 | 空いている時間帯を閉じる/短縮する | 翌月 | 中 |
| 4 | 原価率の高いメニューを調整する | 2〜3ヶ月 | 中 |
| 5 | 客単価を上げる導線を作る | 2〜3ヶ月 | 中 |
| 6 | 集客を増やす | 3〜6ヶ月 | 大 |
集客が最後なのは、効果が遅くて労力が大きいからです。そして構造を直さないまま客数を増やすと、赤字の取引が増えるだけになります。
1と2は今日の閉店後にできて、来月の数字に出ます。ここから始めてください。
やってはいけない立て直し方
全品を値下げして客数を取りに行く
客数が増えても粗利率が下がっているので、忙しさだけが増えて利益は戻りません。そのうえ一度下げた価格は戻せません。
営業時間を延ばす
延ばした時間が埋まる保証はないのに、家賃と水光熱費と自分の労働時間は確実に増えます。②で見たとおりです。
メニューを増やす
「選択肢が少ないから来ないのでは」と考えて増やすと、④のとおり原価率と仕込み時間が上がります。売上が伸びない原因がメニュー数だったケースは、ほとんどありません。
広告を出す
構造が直っていない状態で客数だけ増やすと、赤字の取引が増えます。広告は1人来店あたりの粗利が広告費を上回っていることを確認してから使う道具です。
よくある質問
Q. FL比率が60%を超えていたら、すぐ赤字ですか
赤字とは限りません。家賃が安ければ成立します。FL比率にRent(家賃)を足したFLR比率で見て、70%以内に収まっていれば、その他の経費と利益が残る計算になります。
Q. 自分の人件費は、いくらで計上すべきですか
同じ仕事を人に任せたら払う額です。厨房もホールも管理も1人でやっているなら、そのぶん高くなります。最低賃金で計上するのは、実態より甘い数字になります。
Q. 原価率を下げると味が落ちませんか
全品を一律に下げれば落ちます。やるべきは売れていないメニューを削ることと、原価率の低い商品を一品足すことです。看板メニューの原価は触らないでください。
Q. 数字を毎月出すのが大変です
毎月でなくてかまいません。3ヶ月に1回、売上・原価・人件費・家賃の4つだけ出せば傾向は見えます。細かい経費は後回しで問題ありません。
Q. 赤字が続いています。何から手をつけるべきですか
まず自分の時給を出してください。そのうえで、上の表の1と2(値付けとメニュー削減)から着手します。この2つは費用がかからず、翌月の数字に出ます。
まとめ
個人店で利益が残らない理由の多くは、客数ではなくコスト構造にあります。忙しいのに残らない店が集客を強化しても、忙しさが増えるだけです。
確認する順番は、FL比率 → 自分の人件費 → 家賃の時間単価 → 値付け → メニュー数。とくに自分の人件費は、入れるか入れないかで黒字と赤字がひっくり返ります。
そして直す順番は、値付け → メニュー削減 → 時間帯 → 原価 → 客単価 → 集客。集客が最後なのは、構造を直さないまま客数を増やすと赤字の取引が増えるからです。
自分の時給を出すところから始めてください。それが今いる場所を教えてくれます。
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